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里山エッセイ



となり町戦争

それは9月1日に始まった。学校の新学期ではない。となり町との戦争が始まったのだ。


開戦の知らせは、月に2回配られる町の広報紙に載っただけであった。それも町民税の納期や下水道フェアのお知らせに挟まれるように小さく <となり町との戦争のお知らせ。開戦日、9月1日。終戦日、3月31日(予定)・・・>という簡単なものであった。


そして戦況についてもほとんど知らされず、ただその広報紙の町勢概況のところに、出生数とともに死亡者23名(うち戦死者12名)などと示されるだけである。


ほとんど実態が分からないまま戦争が進んでいくことの不気味さを、三崎亜記さんの小説《となり町戦争》は描き出していく。


戦闘区域の拡大による地元説明会で、どうしてとなり町の人と殺し合いをしなければならないのか、と質問する青年に対して、役所の担当者はこう説明する。「となり町との殺し合いをしているのではなくて、戦争の結果として死者が出るだけです」と。そして「この戦争は、皆さんの代表である議会の承認を受けて進めているのです」とも。


果たして、実際の戦争に対して、議会や行政はストップをかけることができるのであろうか。はたまた私たち市民はどうだろう。


三崎亜記さんは、主人公にこう言わせている。「戦争は、絶対悪としてでもなく、美化された形でもない、予想しえない形で僕たちを巻き込んでいく。その時戦争にNOと言えるだろうか。僕には自信がない」。


一発の銃弾も撃たれず、一滴の血も流れない戦争小説。極めて事務的に役所の事業として進められる戦争。そのリアリティーのなさが、かえって恐ろしさを増大させる。


これからは、市や町の広報紙がどんなにつまらなくても、スミからスミまでしっかり読まなくては。もしかしたら今日、9月1日から・・・。


野口政司 建築家 (徳島新聞夕刊 9月1日付け)


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