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里山エッセイ



美しい町Ⅱ

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                佐藤春夫 『蝗の大旅行』


熊野三山の一つ、新宮の熊野速玉大社の一画に、ハイカラな住宅が建っている。
これは新宮出身の作家、佐藤春夫の東京の旧宅を移築したもので、
現在は佐藤春夫記念館になっている。

春夫の建築好きは、八角形の書斎をもつそのモダンな建物からもうかがえる。

そこには佐藤春夫の作品や愛用品などが展示されていて、
中でもひときわきれいな装丁で目を引かれるのは
『蝗(いなご)の大旅行』という童話集である。

巨大ないなごが地球の上を散歩しているユニークな絵が特徴のその本は、
1926年(大正15年)の発行である。


その本の中に『美しい町』という作品が載せられている。
美しい町をつくるために集まった三人の男たちのお話で、
一種のユートピア小説である。

アメリカ人の父親から莫大な遺産を相続した川崎ブレンタノは、
水路に囲まれた百戸の家からなる美しい町をつくりたいのだと夢を語る。
幼友だちで画家の「私」と売れない老建築家の二人が
その計画に自分の夢を重ねていく。

ブレンタノは、その町に住んでもらいたい人として、
互いに自分たちで選びあって夫婦になった人、
そして自分自身の一番好きなものを職業に選んだ人、などを挙げる。

「家から家庭へ」そして「職業の自由を」。

このあたりは大正時代の夢とも重なりあっている。


土地を探し、設計図を描くうちに熱中していく三人。
ブレンタノがホテルの円卓の上に町の模型をつくり、
家の窓に明かりをともすと、スリガラスでできた川面に灯が写り込む。
青い電球の月の光に照らし出されるおもちゃの夜の町は、息をのむほど美しい。
幻想的でもっとも印象的なシーンだ。思わず物語の中に引き込まれていく。

と、ここで話は変わるが、昨日は徳島市長選挙であった。

選挙というのは択一式なので、どうしても引き算になる。
眉山の景観も、そして音楽・芸術ホールも欲しい者としては
引き算を足し算にできないものかと思う。

眉山への眺望を守りながらホールもつくる。

政治というのは美しい妥協の芸術ともいわれる。
選ばれた方が、偉大なアーティストであることを願うのである。

ちなみに佐藤春夫の『美しい町』では、
三人の足並みがそろわなくなり計画は挫折してしまう。

しかし、百軒の計画の中から一軒だけ建った美しい家の定礎石には、
三人の名前が刻まれたという・・・。
 
 
建築家 野口政司   2008年 4月 7日(月) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より


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