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里山エッセイ



伐り倒される!

 
屋敷林としてひときわ目立つカシの大木だった。
樹齢は定かでないが冬でもぎっしりと緑が詰まっていて地域の守り神だった。
その木に会いさえすれば、
どんなに辛いことがあった日でもほっとくつろぐことができた。
主木を取りまいて、やぶ椿やもち、アオキやシロダモなどの常緑広葉樹が茂り、
赤いやぶ椿が点々と咲いた。
最近では竹やぶに侵食されつつあったが、
昔からあるふるさとの森そのものだった。

 
 
久留米に住む娘から突然の電話。
「お母さん! 伐られる、あの木が伐られるよ!」。
筑後川に程近い久留米市安武町、軒の深い大屋根の立派な家が多く、
大豆に麦に米にと田んぼはいつも豊な実りを見せている。
けれど宅地開発の波が押し寄せ、
娘ひとりの思惑なんぞたちまちに吹きとばしてしまう、
 
「周囲の皆さんはこれでせいせいすると言っていますよ、
風通しもよくなり、虫もいなくなりますからね」。
あれほどの屋敷林になるには優に200年はかかったろうに、
恵まれた所に住んでいるものほど、
自然を壊してしまうことへの恐れを知らないと嘆く。
 
 
パワ-ショベルが木をむんずとつかんで容赦なく引き裂く音に、
「木が可哀そうだよ、止めて!止めて!」と孫息子も叫んだと言う。
娘はその子を抱きしめてうづくまり、震えながら耳を塞いでいるしかなかったと言う。
 
そして夕方、おびただしい数のからすの声が聞こえたとか、
カラスだけではなかったろう、根っこに集くバクテリア、昆虫の数々、
木の洞に住んだ動物、四季折々に訪れた鳥たち、
何百年もねぐらにしていたものたちは、次のねぐらをどこに求めていっただろう?
 
 
 
「鎮守の森に象徴されるふるさとの木によるふるさとの森、
生存の基盤、文化、心、魂のふるさととしての21世紀の森づくりを!」(宮脇 昭) 。
 
先日来、目にする緑はすべてその話に結びついてしまう私に
娘の嘆きはとても他人事とは思えず、
地霊の罰を受けるぞ、天罰が下るぞとまがまがしい言葉が浮かんでしまった。
水を貯え地を潤し精気を放つ森、その単純にして森厳な事実を忘れたくないと思う。
 
 
 
 
 
 
里山の風景をつくる会 理事 
地球温暖化を考える-市民アクション2010-徳島代表  八木正江
2010年 6月 26日(土) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より


園瀬橋のお地蔵さん

お地蔵さん.jpg
 
 
 
 
「銅の鳥居のお地蔵さんこちら→」土手の上に妙な看板が立っている。
文化の森近い土手上の道、車がびゅんびゅん通り、
パワーショベルやダンプが出入りする。

法花トンネルも山肌に風穴よろしく開通、
この辺りの余りの変りようには、つい固く目をつむってしまいたくなるのだが、
今日は看板につられて思わず知らず→の先をたどると・・・
いましたいました丸々坊主をお日さまに照らされて
コンクリ-トの台座の上にお地蔵さん2体。

 
 
ぜひ訳を聞かねばならぬ。
園瀬橋たもとの、150年続いたという元晒し屋の中野正治さんを訪ねた。
煙突のある古い晒し工場の建物はつい最近まで残っていて、
石垣を組んだ疎水でつながれていた。
風車も回っていそうなきれいな疎水だったから
私はいつもバス待つ間見とれていたものだ。
 
今は園瀬橋付け替え工事によって建て屋は跡形もなくなり、
疎水ばかりが往時を偲ばせている。
同時に土手上のお地蔵さん、お邪魔さんになってひとまず避難となったらしい。
 
 
このお地蔵さん、背中に「寛延」の文字がある。
今から270年前の江戸中期の年号で3年間と短い。
その時どこにおられたかは定かでない。
丸めた両の手に宝珠を抱え優しいお顔。
中野さんがもの心ついた昭和の始めには煉瓦作りのお家に住んで土手の上に、
その後園瀬橋の改築や文化の森工事で、
土手の中腹に下ろされて30年、裸のままで雨風が冷たかったよ、夏は暑かったよ。
また移され昨年までコンクリ-トの囲い舎に入って土手上におられた。
人間の都合に合わせて上に下にと引き回し。
 
 
万物を生じさせる大「地」のように偉大な効力を「蔵」するお地蔵さん。
観音さまと同じく現世利益に権現新たか、
おまけに衆生の罪を救いあの世の人との交感も果たすというのだから
地蔵信仰は庶民の間に広がった。
村の入り口に、町のかどに、田畑のすみに、
峠の頂上にいずこにもおられて私たちの生活に溶け込んでいる。
 
 
もう手を合わす人もまれと中野さんは嘆かれたが、
人の世の栄枯盛衰見続けて今また大荒れのこの世情、
お地蔵さんの感想聞きたいものだ。
 
 
 
 
 
 
里山の風景をつくる会 理事 
地球温暖化を考える-市民アクション2010-徳島代表  八木正江
2010年 6月 11日(金) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より


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〒770-8055
徳島市山城町東浜傍示28-53
TEL:088-655-1616
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