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里山エッセイ



ぞめき

忘れ得ぬ人がいて、
忘れ得ぬ言葉がある。


32年間続けてきた「城の内読書会」が
15日、355回をもって幕を閉じた。
さまざまの思いが交錯する。


知人、親戚誰もいない徳島に来てまだ日が浅かったあの頃、
私と周囲をつなぐのは本だけだった。
だから市立図書館の貸し出し文庫「いずみ号」の巡回が、
どんなに嬉しかったか。

読書振興に大いに力を入れていた徳島市立図書館は、
指導者を養成しようと読書グル-プの育成に力を入れていた。
「城の内読書会」もその一つで、
心地よい居場所を見つけたとばかり、
定年後のお偉方に恐いものしらず、
若気のいたり、けんけんごうごうと議論を吹きかけた。
相手はかくしゃくと政治経済を論じ、社会や平和を論じた。
何より郷土を論じた。


それらの忘れ得ぬ人々は皆既に鬼籍に入られたが、
その一人が当時モラエス館館長だった松本進さんだった。


太い眉にぎょろりの目、強面の優男、
とは矛盾した表現だがその通りだった。
どんな会話だったかは覚えていないが、
松本さんから初めて「ぞめき」という言葉の蘊蓄を聞いた。

「阿波踊りはぞめきのリズム、
そもそも阿波踊りの由来は精霊の盆踊りの流れを組み・・・・」。
今にも踊り出しそうな、相好を崩しての説明が目に浮かぶ。


ぞめき、動詞にしてぞめくは、
踊りを囃す急調子の三味線の音とか、
踊り全体の得も言われぬ雰囲気全体を指すともいう。
8月のぞめきは格別だが、
いつの時でも「ぞめき」と口に出せば、
ただに賑やかなだけでなく庶民感情のエッセンスが底流にあるような、
その魂の声を聞くような不思議な感覚が体の中を通り過ぎていく。


「松本さん、城の内読書会が終わりました。
私たちの心底にぞめき心を残して終わりました。
最後の課題本は「女たちの明治維新」(鈴木由紀子著 NHKブックス)。
明治という時代の変革に関わり、
時代を画した女たちの足跡をたどった本でした。
32年間この会を続けてきた私たちも、
またそれぞれに時代を画したと自負しています。
いつまでもぞめきの心意気を持ち続けます。」
そう報告したい。

忘れ得ぬ人に会い、
忘れ得ぬことばに出会えたことを
幸せに思う。

里山の風景をつくる会 理事 
地球温暖化を考える-市民アクション2010-徳島代表  八木正江
2010年12月17日(金) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より 


落ち葉の季節に

はらはらと紅葉がこぼれている。
散り敷く落ち葉は色とりどりの豊穣。
コンクリ-トの道に舞い降りて
土に還らぬ落ち葉は寂しいが、
この季節に決まって思い出すのは
高村光太郎の詩
「落ち葉を浴びて立つ」


「どこかで伽羅のくゆっているやうな
日本の秋のなまめかしくも清浄な
一天晴れたお日和さまよ」

に始まる長詩は、

「棄ててかへり見ぬはよきかな、
あふれてとどめあへぬはよろしきかな」

と続き

「落ち葉よ、落ち葉よ、落ち葉よ」

と呼びかけ

「心に豊穣な麻酔を取らう。
ありあまるものの美に埋もれよう」

と結ばれる。
 

そんな落ち葉の季節に
50年ぶりの友に会った。
うら若き乙女も七十路を迎え、
あの日奈良公園に落ち葉を浴びて立ち、
また会おうね!と固く約束してから半世紀、
厳密に言えば、奇特にも毎年続けられている同級会だから
単に今まで私が出席しなかったに過ぎないのだが。


殆どが教職につき活躍した。
それぞれの人生は山あり谷あり大波ありと、
さながら小説のよう。
当時昭和30年代、
多くは地方から学を志して進学、
戦後の動乱期を経て
まだ新旧価値が入り乱れていたが、
折からの学園闘争なるものにも巻き込まれ、
世間知らずの純粋培養と冷やかされながら、
それでも真剣に議論を重ね
生きることの意義を考え続けた。


その時があって今がある、と皆が言う。
これからの世の中どのようにあって欲しいのか、
そのために老齢むち打ちできることがあるはずだ。
夜更けまで議論が続いた。
 

99対1の原則というのがある。
それだよ、世界に100人の人がいて、
世界がぜひに変わる必要があるとする。
変わって見せる一人は他人ではなく、
まず自分でなければならない、ということ。
七十路は賢くて元気と自らを褒め、
その一人になろうと誓う。
鳴門海峡の紺碧の海と、
眉山山頂からのきらめく夜景と、
藍がめの深遠な色合いとが、
集う皆にそんな素敵な思いを抱かせた。


最後はひょうたん島を廻って
川の町も垣間見て満足、
徳島に見所多々ありにも目覚めて
忘れ得ぬ落ち葉の季節となった。

里山の風景をつくる会 理事 
地球温暖化を考える-市民アクション2010-徳島代表  八木正江
2010年12月2日(木) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より 


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〒770-8055
徳島市山城町東浜傍示28-53
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FAX:088-655-1632
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